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2018年2月 2日 (金)

「田園発 港行き自転車」宮本輝

20180202

若い頃には、読んでも冗長な感がしてあまり印象に残らなかった宮本輝だが、数年前から彼の作品がけっこう気になっていたのは以前アップした通りである。その後飛鳥Ⅱのライブラリーに全十数巻の宮本輝全集があるのをみて読んだところ、これが旅の無聊を慰めるによくすっかりハマってしまった。すでにライブラリーにある全集の半分以上は読んだであろうか、あまりひと気のない飛鳥Ⅱの船尾デッキでデッキチェアーにもたれ、船の引き波が奏でる音を身近に感じつつ、宮本輝全集の長編小説を読むのはいまや飛鳥Ⅱに乗船する際の楽しみの一つである。


そんな宮本輝の新刊「田園発 港行き自転車」(集英社文庫)が出たので、さっそく上下2巻を買って読んでみた。北日本新聞に連載されていたこの小説は、富山で起きた一人の男性の死とその死によって生かされた一つの命、そこに係わる多くの人たちが紡ぎだす人間模様を描いたものである。小説では、物語の舞台となる富山の美しい自然と京都の花街の風情が、両地に縁の深い作者によって詳しく描かれており、この情景描写をバックに魅力的な作中の人物たちを読みとくうちに、次第に読者も物語に引き込まれていくという筋書である。


例によってスリル満点とか波乱万丈、最後に大逆転などという劇的な話の展開はない。読んでいるうちにふとうたた寝をして手から本が滑り落ちているが、気がつくとうっちゃておけず、すぐにまた本を手にして読みたくなるような物語である。とはいうものの男性の死に関する謎が解き明かされていく中で、多くの人間関係の綾が解きほぐされていく過程は、思わず先を読み進めたくなる宮本輝ワールドである。「コツコツと生きる」「謹厳」「感謝」「信頼」「時の経過による癒し」などという宮本作品のキーワードが頭に浮かびつつ、読了してみると「読んでよかった」と思わず漏らしてしまう「田園発 港行自転車」であった。

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