米中 世紀の競争
ジェフ・ダイヤーという英国人ジャーナリストによる「米中世紀の競争」(原題 CONTEST OF THE CENTURY)を図書館で借りて読んだ。2015年に出された400ページ近い大著だが本屋で買えば2800円もする。興味深い本ではあったものの、こんな高価なハードカバーを買うのはやはり気がひけ、図書館から借りて返却期限を気にしつつ懸命に読みすすめた。
フィナンシャルタイムズの元北京支局長を勤めた著者は、中国の挑戦にアメリカが勝てるのか、軍事・政治・経済面から様々な考察を披露している。まず軍事的に中国は、かつて西欧諸国が行ったような帝国主義によって他国領土の侵略を企てる手段よりは、西太平洋の海域から米国のプレゼンスを駆逐したいのが主眼だと云う。海軍力の強化と国力の進展を説いたアメリカのマハン戦略の信奉者こそが北京政府であり、これに対して建国以来、西へ西へとフロンティアを伸ばし、日本やフィリピンを勢力の下に置いた米国がいま衝突をおこしているとしている。
政治や経済の分野では、中国通貨の国際化や各種経済協力を通じ北京政府はその覇権主義的な態度を露骨に示し始めている。しかし近隣のアジア諸国はアメリカ・中国のどちらにも深くコミットせず、両国のバランスの上に自国の利益をはかろうとしているそうだ。本書を読むと、中国軍がアメリカの無人潜水機を盗んだ事件や、フィリピンのドゥテルテ大統領が支離滅裂な発言を繰り返す事など、東アジアで今おきている事象の根本がよくわかる気がする。
読後、中華共栄圏の再現をもくろむ中国がその勢力を伸ばす事に、我々はもっと神経を尖らせねばならないとの感想を抱いた。いくら中国が経済成長し、いずれGDPで米国を抜いても、その文化圏に巻き込まれるのは真っぴらで、民主主義・自由主義のアメリカ側にいる方がはるかに幸せであろう。経済や軍事面のみならず、映画・音楽・カルチャー・スポーツなどの文化面でも、我々は中華圏とはより一層距離を置き、従属的であってもアメリカと共に歩むべきだと認識をあらたにした。現代版の脱亜入欧と行きたいが、トランプ新政権は、日本と中国のどちらにより友好的なのか、やはり心配ではある。
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いよいよ押し迫って来ました。
来年は激動の年に成りそうですね。
バルクキャリアー様もお疲れ様でした。
良いお年をお迎えください。
来年も記事楽しみにしております。
投稿: 親スズメ | 2016年12月29日 (木) 23時13分
親スズメさん
年末の旅に出ており、長崎県に妻とおります。今年一年コメントをありがとうがざいました。とても励みになりました。
世界規模の地域主義復活とグローバリズムの終焉のなかで、日本が真の独立を全うできるか、そろそろ我々の真価が問われる新年になりそうですね。
良いお年をお迎えください。
投稿: バルクキャリアー | 2016年12月31日 (土) 08時39分