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2016年11月 5日 (土)

佐伯啓思氏の「反・民主主義論」を読みつつトランプ候補にちょっと期待する

20161104

英国が国民投票によってEUから離脱するというブレクジットにも驚いたが、米大統領選挙でトランプ候補が大いに盛り返し、クリントン候補と大接戦という連日のニュースにも驚く。「イスラム系をアメリカから追い出す。メキシコ国境に壁をつくる。アメリカは世界の警察をやめる。」などと吼えまくるトランプ氏が大衆の喝采をあびている現象を見ると、民主主義の行き着く先はこういうものかとの複雑な思いが湧きあがってくる。おりしも民主主義の様々な面を説き明かした京都大学名誉教授・佐伯啓思氏の「反・民主主義論」が新潮新書の新刊で本屋の店頭を飾っていたので迷わず手にしてみた。


佐伯氏は評論家の西部邁氏と学問的には近いとの事で、なるほど西部氏が日頃メディアで語るのに似た話の進め方によって、「憲法」や「民主主義」がこの本で俎上に載せられる。しばしパラドキシカルかつニヒルな論理の展開ゆえ「うん!??」と思い読み返したりする部分もあるが、民主主義や憲法の『本質』をどう捕らえるかについて 本来私たちが踏まえておかねばならない事がらが述べられる。安部政権に対して何かと云うと「民主主義の危機」「戦争への道」などと叫んでいる様な単純な左マキ連中に、民主主義とは何かについての覚悟を突きつけているのも良い。


氏によれば今のトランプ現象こそ民主主義そのものだと云う。民主主義とは自分たちの『支配者』を一定のルールに従って選ぶ政治で、どこへ流れ着くのか容易にわからないものであると云う。多数決で決まるから絶えず敗れた側に不満分子が生まれ、その不満分子に支えられ新たに世の中をそしる支配者が必然的に出てくるシステムが民主主義なのである。本来は民主主義が働くには神や自然、伝統や社会通念的な裏付けが必要だが 「自由な競争主義やIT革命やグローバル金融などによって共和主義的精神も宗教的精神も道徳的慣習も打ち壊しながら、民主主義をうまく機能させるなどという虫の良い話はありえない」 とこの本は説いている。アングロサクソン的自由主義が行き着いた先の、米国や英国でおこっている民主主義が何なのか、本書を読むとなるほどと考えさせられる。


さて、こうして豊富な金を担保に「アメリカを強くする」と吼えながら大衆の情念を刺激した「むきだしの民主主義」者トランプ氏が本当に大統領になる可能性が高まってくると、我が国では従来の日米安全保障体制が揺らぎ、日米間の貿易体制にヒビが入るのではとの懸念が増している。まあ本当にそうなったら現実には一定の歯止めはかかるとしても、日本の防衛などに米国がカネを使わないと主張する彼の当初の方針によれば、国内の米軍基地もいずれ少なからず影響がでてくるのではなかろうか。


いま中国の軍事力が台頭し北朝鮮の核開発が進む中、もし相当な規模で在日米軍が引きあげてしまえば、それは直ちに日本人が戦後初めて自分の責任で自国や地域の平和を考えねばならない事態に直面する事になる。中国や北朝鮮の脅威に対し自主防衛のためには憲法は今のままで良いのか、集団的自衛権が云々などと抹消な論議をしている場合か、米軍去りて沖縄は経済的に成り立つのか、などなど日本も自分のアタマで自国と地域の安全保障を考える時期がやってくるのである。それは米国の軍事的プレゼンスの下、戦後憲法によってぬくぬくと生きる事が許された空想的平和主義の時代が、とうとう終わりを告げる時だと云えよう。トランプ氏がもし大統領になったら、我々もやっと戦後の呪縛からとき放たれ、これを奇貨として安全保障を自分で考える当たり前の国になるのかもしれない。

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