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2016年6月21日 (火)

終わった人・内館牧子著

20160621

これまでリタイアをテーマにした小説などあまり読まなかったが、定年の花束を手にしたサラリーマンが描かれたイラスト表紙が気にいって、この本を購読してしまった。時あたかも同じ年代の友人達から「今日限りで会社を辞めます」というメールがしばしば届く季節である。本の帯に書かれた「定年って生前葬だな」という文句に加え、読売新聞の橋本五郎氏による「私も60代。まるで自分が裸にされているよう」との評も何やら気になった。読み始めてみると、予想通り我々のごとき退職世代の心理を実にうまく描いた話に、本を繰る手がすすんで一気に読了してしまった。


物語の主人公のような東大法学部卒ではないが、私もちょうどこの本と同じ49歳で子会社へ出向し、数年して転籍を示唆されたものだった。出世街道からはずれる主人公の葛藤が、まるで昨日の自分の事であるかの様に思え、一ページ毎に「これはまるで我が人生を書いているのではないの?」と錯覚したり、「ははは、それ良くわかるわかる!」と膝を打ったりしてしまうのだ。かと思うと「ここは主人公より俺の方がずっとましだね」と妙に自分に安堵しつつ、作者の内館牧子氏がたかだか13年のOL生活で、これほど巧みに「サラリーマンとして成就していない」人を描けると云うその技量に驚く。


プライドだけは矜持し老人くさい行動を忌避しながら、どうにも時間と体を持て余す主人公の定年生活。反対に自分の世界を持ちますます強くなる妻と、お約束通りの筋書きが続くうち、話は思わぬ方向へ急展開を遂げていく。若い彼女の出現や故郷の旧友など、シニア世代をくすぐる設定も効果的で、本来は重いテーマも軽やかな筆致で心地よく話が進行する。ストーリーを追いながらも結末がなかなか見えない中、どうやってこの話しが終わるのか、ちょっとスリリングな気持ちさえ感じながら本書は最後まで楽しめたのだった。「六十代というのは・・・まだ生々しい年代である」、「なのに、社会に『お引き取り下さい』と云われるのだ」(あとがき)という現実を踏まえ、”格好よく年をとること”を私自身もこれからどう体得していくか、この小説からは考えさせられるところも多いのである。


追記:これを読んだ妻は「日ごろ無意識にスルーしている(夫の)事柄が、活字化されて改めてムカムカした」との事である。

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