ラバウル蜜蜂騒動
国際海運を巡るルールや諸規制は、最近ますます項目が増えかつ厳しくなるばかりである。かねてからあった乗組員に対する最低賃金の保証や各種の船舶検査ならびに衛生検査はもとより、油濁事故に関する賠償責任補償・テロ対策・海運版品質管理システムの導入など従わねばならないルールは実に多岐多様に亘っている。最近は船舶が使用する燃料油の成分や航海の安定の為に使用したバラスト水の排出規制なども課題になっており、それらは国連の海運機関(IMO)によって導入されたものから、船の船籍国・寄港国の定めたもの、さらに保険業界などそれぞれの関係機関が独自に決めたものまで様々な観点から制定されている。
近頃は貨物船に関して品質が良いのか格付けをする機関もでき、荷主には基準になるのだろうが評価される船会社にとってはまた余分な作業が必要になってきた。そんな諸規則の中で運航する側にとって頭が痛いものの一つに害虫対策がある。これは日本を含む極東地域に広く生息しているマイマイ蛾というガの一種が春~秋にかけて入港した船舶の上に卵を産み、その船が米国やカナダに到着した頃に羽化し、現地の針葉樹を食い荒らすためにその対策として行われるものである。夏場に極東各地から北米に行く船は、現地で煙突の中からマストの先まで、どこにあるのかないのか判らない蛾の卵検査があるのでその対策に多大な人手と時間を要しているのである。
さて昨日、早朝に飛鳥Ⅱが入港したラバウルでは、何を勘違いしたのか蜜蜂たちが、本船のテニスコートや後部デッキに大きな巣を作り始めた。飛鳥Ⅱは海岸から数百米離れた湾内に錨泊したのだが、この白い船体の上は熱帯の森林と違って外敵もいないと蜜蜂たちは勝手に思ったのだろうか。海に出てしまえば瞬時に生きる術もないというのに、朝ラバウルに入港した数時間のうちに高さ数十センチの黒い蜂の巣(かたまり)が本船上にできている。そのうちデッキにもプールの周囲にも多くの蜂が飛翔し始めたので、乗客がさされないかとクルーたちも心配しだした。虫といえば仕事ではマイマイ蛾でさんざん悩まされたものだが、乗客として船上で蜂に遭遇するとは想像もしなかった。
昨日は関係各部による鳩首凝議の末、勇敢なホテル部門とデッキ部門のクルーが完全防虫防備の格好で蜂の巣に殺虫剤を散布し事なきを得たが、予期せぬ出来事に迅速に対処するさまから、人を乗せる仕事がいかに大変なのかその一端を垣間見る気がした。私が仕事で長らく関わってきた貨物輸送でも、時には荷崩れや発火によって船の安全性が損なわれたり荷物の損傷事故などが起こるが、生身の人間を海上や他国の港を経由して安全快適に運ぶ事には我々が想像もできない苦労がつきまとうはずである。今回の蜜蜂騒動は、停泊中の出来事で多くの乗船客が上陸中ゆえ知る人こそ少なかったものの、最近の様々な諸規制の対応に加え、目に見えぬところで安全輸送を請け負う客船のサービスとは大変なものだと実感したのであった。
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