町の中華料理屋
町の中にあるフツーの中華料理屋が次々と消え、その後には表通りに向かって大きな料理の写真メニューを掲げる中国人の店がオープンしたりする。でもそんな店ではなく、いい歳をした日本人のオヤジが一人で中華鍋をフっている『町の中華』がひどく懐かしくなってくるものだ。で、ひなびた中華の店を道の傍で見つけたり、「そういえばあそこに中華があったな」とふと古い店の事がアタマをよぎると、なるべくそこに行ってみる事にしている。という事で我が家から歩いて15分ほどの所にある大盛軒に妻と二人で夕食を摂りに行く事にした。地元で育った妻によると子供の頃からそこにお店はあったものの女性一人で入る勇気はなく、彼女にとっては存在を知ってから半世紀近くたっての初入店だそうだ。
「あれえ、今日はやっているのだろうか?」と訝るほど人の気配さえ感じぬ扉をおそるおそる開けると、店内では三人の初老のオヤジが酒を飲んでいて、皆がジロっと品定めの様に我々二人をにらむ。なにやら秘密クラブに迷い混んだか、はたまた来てはいけないところに踏み込んだのかととまどいつつ、「2人だけどいい?」とカウンターの向かうのオヤジに聞くと「どこでもどうぞ」とぶっきら棒な返事である。見ると店内の床は赤い擦り切れたカーペット、古びた化粧版を表面に張ったチープなテーブルが数脚、壁際の椅子は病院の待合室の様な黒い長椅子、それも人がよくすわるところのクッションが磨り減ってでこぼこしている。
場の雰囲気にいたたまれず壁に書かれたメニューを見る事もなく 「と、とにかくビ、ビール」 と注文すると、返って来た言葉は 「大瓶?中瓶?それとも小瓶?」!!。近頃はどこでも 「ビール」 と頼むと 「生ですか?」と聞かれるのに、ここでは生どころではなく予想外の大中小から選ぶビンのサイズで、これぞ「古き良き町の中華」かと少し緊張もとけてくるのである。「もちろん大瓶ね」と答えたところオヤジの次の言葉は「キリン?サッポロ?アサヒのどれ?」!!。飲料メーカーの系列に取り込まれ、出すビールの銘柄が決まっている店が多い中、昔ながらに客の都合でどのメーカーでも飲めるのは嬉しいもので、こちらも段々気分がノってくる。
ほどよく冷えたサッポロの大瓶の栓をあけると、突き出しは冷奴に続いてニラを巻いた玉子焼き。ここらでやっと心も落ち着いてきたので、あらためて壁に貼られたメニューを見ると、中華麺をはじめチャーハン、餃子などの定番からニラレバ、オムレツやカツカレーとお約束の料理が並んでいる。しかもその値段は40年前の物価かと云う安さで、さすが自分の家でオヤジ一人がやっていると、今でもこんな値段でできるのかと感激である。すっかり気分が良くなった我々はサッポロビールの大瓶をもう一本頼み、餃子に野菜炒めと注文するが、オヤジがあやつる中華鍋から次々繰り出される料理は、我々の舌に馴染んだ懐かしの味である。〆に私はサッポロ味噌ラーメンに妻はタンメンを堪能し、さて値段はとなると、何と3000円ほど!。昭和は遠くなりにけりだと思っていたが、残っているところにはあるものだ、と幸せな気持ちで帰路についたのだった。ただ常連客ばかりの店内では、記念の写真を撮影するのも何となく気恥ずかしい雰囲気ではあった。
写真はランチ営業開店前の大盛軒
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