「戦後七0年『右傾化』批判の正体」
イースト新書から出た「戦後七0年『右傾化』批判の正体」が面白かった。著者の酒井亨氏は共同通信などジャーナリズムの世界から大学の教員になり、台湾での永い滞在暦をもとに日・台のエキスパートとして多くの本を書いているそうだ。この本は「日本は右傾化したか」という主テーマを始め、現代若者論や世代論、過疎化からメディアへの批判まで、筆者による社会批評の筆致はまさに縦横無尽の展開である。欲を言えばもう少し重厚な考察やアカデミックなアプローチがあっても良いとも感じたが、「正味2週間で書き上げた」と云う本書はまるで酒席の掛け合い話の如しで、その軽妙な考察は読み物として小気味良い。
著者はどちらかと云えば左派・リベラルに属すると自己分析しているが、その視点から見て安部政権の内容を一つ一つ吟味すれば、それは世界水準ではリベラルだし、右翼的発言の代表・石原慎太郎でさえ、中国や韓国基準で比較すれば中道だとごく真っ当な評価を記している。もっとも本来は分配の平等を主張すべき共産党支配の中国が、自由貿易の恩恵を最大に受け貧富の格差が極大化している様に、従来の枠組みによる左・右の区分けもこの世界情勢の下では錯綜しているのが事実。こうして多様化した世の中で我が国の左派はアカデミズムに固執し、現実を省みず論理の一貫性を欠き、だだ耳障りが良いポピュリズムに陥っている事が衰退の原因であると本書は指摘する。
日本の左派は彼ら特有のスノビズムで自国を悪く云う本質に加え、中国やチベットで起きている問題には眼をつむるなど、ご都合主義かつ弱者への連帯が薄いのも受けない大きな要因だそうだ。さて、そういう中で日本人の課題としては、我々が持っているすぐれたポテンシャルに気づき、もう一度平和をベースにした真の大東亜共栄圏的な地域連携を模索する事だとの提案がなされるが、左派・リベラルと自称する著者からそんな事が言われるのが興味深い。いわく中国の台頭に恐懼する地域の各国、特に台湾と組んで、自由と民主主義・法の支配に基づく平和な連合を作るべしとの趣旨で、私もこの提案に諸手を挙げて組みしたい。ただし、韓国も仲間に入れるとする著者の意見だけは、ちょっとご免蒙りたいと思っているのだが。
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