パクチ
会社をリタイアした先輩たちは普段なかなか元の職場に顔を見せないが、中には気が若く若者達に混じってスキーに行ったり山登りに参加するシニアもいる。時間がたっぷりあるそんなOBの一人が自宅でパクチを栽培したところ、思いのほか沢山収穫できたと会社に来たのでそのお裾分けにあずかった。パクチを自宅で育てるのはなかなか難しいらしいのだが、このOBはかつて南米に駐在していたので、そこで育て方を覚えたのか立派なパクチである。
なんでもパクチは地中海地方原産セリ科のハーブで、シャンツァイ(香菜)やコリアンダーと同じものだという。独特なクセのある匂いは肉の臭み消しに使われたり、刻んでサラダやスープ、ソースなどの風味づけによく使われる通りである。この種子を乾燥させたものがスパイスのコリアンダーだが、なぜかシャンツアイと聞くと中華料理、パクチと聞くとタイやシンガポールのエスニック料理、コリアンダーなら西洋料理を連想してしまう。
パクチを抱えて帰宅し「これ貰ったから何かアジア系のエスニックな料理を作ってよ」と妻に頼むと、包んだビニール袋を見るなり「ムリ。私この匂いが苦手なの」と顔をしかめながら思わぬ返事が返ってくる。「エー?、その昔、六本木の中華レストランに東京では珍しく本物のパクチが美味しい店があるから行く?」って誘ったら「『うん!』て喜んで一緒に行ったのに?」と突っ込むと「あれはつき合っていた頃の事だから、せっかくドヤ顔で誘ってくれたのにむげに断ってはまずい、と思ったのよ!」だそうである。
と、翌日になって思わぬ助け舟、義理の母がパクチ入りのサラダに生春巻き、それにパクチを散らしたスープを作ってくれる事になり、その夜は東南アジアにいるかの様な夕食を楽しんだのであった。それにしてもパクチに誘う私を前に、見るのも嫌なのにとりあえず従うフリをした謙虚さと遠慮が当時の妻にはあったのである。今ではほとんど妻の言うなりの自分を顧みながら、葉っぱをもがれてすっかり寂しくなったパクチを思わずしみじみと眺めたのであった。
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