「おおすみ」事故報告書公表
昨年1月、広島県沖で海上自衛隊の輸送艦 「おおすみ」 と釣り船が衝突した事故で、国の運輸安全委員会の調査報告書がこのほど出されたのでさっそく全文を読んでみた。それによると釣り船が事故直前に進路を変更し、「おおすみ」 に接近した事が原因と報告書に記載されている。この件について事故当時このブログで2度にわたり自衛艦に原因があるかに報道したメディアはおかしいと指摘したが、やはりというべきか当然というべきか、調査報告書では事故の原因が釣り船にあったとされたのである。( 自衛艦については早い段階での減速、より大幅な減速を行うなどしていれば、事故を回避できた『可能性』があると調査報告書は指摘している。)
当時、新聞やメディアの報道に接して違和感を覚えたのは、海上衝突予防法によって相手船を右舷に見る船の側に避航義務があるから、「おおすみ」の左舷に釣り船がぶつかっている(すなわち釣り船の右舷がおおすみに当たっている)なら、まず釣り船側に主因があると疑えるのではないか、という事であった。もちろん船舶の輻輳する海域や狭水道などでは様々な要因が絡む場合があるものの、どうも今回の事故ではそういう要素が少なそうだから、まあ 『普通』 の感覚の持ち主なら釣り船側に操船のミスがあったのではないかと疑ってよいはずだ。
それが当時のメディアとくると、テレビ朝日の古館キャスターやコメンテーターなど多くが 「大きな船が見張りをしっかりしていないから事故に至ったのでは」 とまったく根拠のない憶測報道をしていたものだ。なかには 「おおすみ」 が事故直前に左舷に大廻頭をしたかの如く妄想図を描いてみせたテレビニュースや新聞もあったが、こういう人達の意見も今日の報告書で吹き飛んでしまったわけである。そんなメディア人間たちが頭を丸めずに、今日もしたり顔でデタラメな解説を垂れ流しているのかと思うとなんだか恐ろしい気がしてくる。今回の報告書では、釣り船の船長は船の同乗者にライフジャケットをつけさせなかった上、「おおすみ」の早くからの五度に亘る注意の汽笛にも 「心ここにあらず」 という感じで反応していない様にみえるのである。
さて今日の発表の後、ここに至っても朝日新聞(デジタル版)では 「釣り船乗船員、報告に憤り」 と事故調査委員会の報告を暗に批難しているが、彼らは目撃者の証言も取り入れた客観的な調査よりも感情を優先した方がニュースになるとでも思っているのだろうか。1月の冷たい海で亡くなった釣り船の乗船者には謹んで哀悼の意を表するし、自衛隊の様な国家権力を監視するというのがメディアの役目だとしても、妄想や思い込みから報道がつくられるのではいわゆる『慰安婦』問題と何ら変わる事がない。そろそろ 「自衛隊と民間の事故」→「自衛隊が悪」というステレオタイプの報道をやめにして、これを機に小型船や漁船の操船不注意による事故や、その防止策を論ずる事こそメディアの役目ではなかろうか。
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