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2014年11月20日 (木)

「日本人が知らない軍事学の常識」草思社文庫

20141120

兵頭二十八氏の、”日本人が知らない軍事学の常識”(草思社文庫)が本屋の店頭で「話題の本」として山積になっていた。著者の兵頭氏は陸上自衛隊を経験した後に大学に入った研究者で、月刊"WILL"の巻頭に定期的に掲載されている彼の記事が印象深い事もあり、迷わずこの文庫本を購入してみた。常々、PKOや災害救助などに奮闘する自衛隊員には秘かに敬意を感じつつも、純粋に軍事的な面から見た自衛隊の実力や日米安保の有効性、さらに現在の日本の立ち位置などについて自らの無知を感じていたので、この本は私にはちょうどよい軍事学勉強のテキストである。


一読すると「そうだ!」と首肯する部分、「なるほどそうだったのか!」と目からウロコの部分、「へー!」と新たに気づかされた三つの部分から成っていた、というのが大づかみな感想である。例えば「安全なはずの日本国が、明治以降、逐次に危険領域に足を踏み入れることとなったのは、シナ人に対する無知ゆえです。」と明治以降、中国にかかわった事が、近代日本の大失敗であると指摘する氏の論は、我がブログでも福沢諭吉の脱亜論とからめ同じ趣旨でアップした通りで、このあたりはただただ私は本書に同意するばかりである。また「『一億総背番号制』が日本を守る」というくだりは、真っとうでやましいところのない日本人ならまず誰もがそう思うはずで、氏の本音が心地よい。


自衛隊の経験者ならではの考察、例えばなぜ普天間の海兵隊と嘉手納の米空軍が統合できないのかというテーマは、「目からウロコ」でとても興味深かった。これは米海兵隊と空軍兵士の出自の違いによる気質や待遇の差などが関係しているそうで、マスコミから普段知らされる以外に米軍基地の問題には様々な側面がある事が伺える。まあ軍人と云うものは旧帝国陸海軍はじめ世界中のどこの国でも、敵をつくって危機をあおる事で自分たちの食い扶持を探すのだが、「米空軍の最大の悩みは、今日の主敵でありますシナ軍の飛行機や、地対空ミサイル部隊が、かつてのソ連軍に較べて、あまりにも技量低劣で、弱すぎることです。」という指摘が痛快だ。


この本によると、例の中国初の空母”遼寧”はもちろんの事、彼らの潜水艦の8割は稼動できず、イージス艦は格好だけで「張り子の虎とはシナ海軍のことで、彼らが威勢がいいのは、戦争になる前の段階までです。」と我々をひと安心させてくれるのだが、あまりに中国の軍隊が弱いと自衛隊も予算獲得に苦労するのだろうか、と読んでいるこちらが却って我が国防予算に心配になったりする。中国がいくら世界中から設計図をパクって外形は似たものをつくっても、素材管理や工程管理、下請けや軍需産業を支える幅広い産業基盤のなさで、米国製とは何十年もの開きがある、という説明も素直にうなづけるのである。


「他国から侵略される事を抑止するものは、その国の軍隊とそれに加勢する同盟国」だけとか「核兵器は(実際に)使えない兵器でも外交や戦争抑止には役にたつ兵器。」という基本的な軍事のスタンスを本書は判りやすく解説してくれたかと思うと、北方領土では4島返還でなく国後・歯舞・色丹の3島返還ならロシアは合意できるという縦横無尽の説明は我々を驚かせてくれる。何にもまして、原子力発電所を軍事攻撃すれば国家は麻痺させる事ができると云う事を3・11以降世界が知ってしまった、との問いかけは我々を震撼とさせる。たしかにいつ起きるかもわからない地震のほんの僅かな可能性を云々するより、原発に対するテロや攻撃の危険性をもっと議論すべきなのでは、という気持ちが本書を読んだらおきてきた。

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