うなぎ江戸川橋 「はし本」
会社も第一線をはずれると、昼食つき会議の回数がめっきり減って、以前は毎週の様に食べていた”ちらし”や”うな重”にお目にかかる事も稀になった。人間と云うのは不遜なもので、往時は「今日もまたうなぎ?ちょっと飽きたなあ。外国の会社の様にドミノピザでもとってピザ片手に議論するか」などと弁当手配の女性をからかうと「(高齢の)会長がそんなのOKするわけがないじゃないですか」と軽くいなされたものだ。そんな生活を懐かしみながらも、中国製品・食品の不買運動を展開中の身としては、スーパーで売られている国産うなぎの小さく高いパックに手が出ず「うなぎ食いたし懐さびし」の日々を過ごしていたのである。
ただ最近は会社から直帰で妻の料理負担も大変だろう、という事で昨日は久々に2人でうなぎを食べに行く事となった。予約したお店は江戸川橋の「はし本」である。以前、友人と同じ江戸川橋のうなぎ名店「石ばし」のうなぎを堪能、その事をうっかり一言妻に漏らして以来、彼女のたっての希望である”江戸川橋でうなぎ”の夢実現である。1835年(天保六年)から神田川沿いの同じ場所にあると云う「はし本」の店構えは、さりげなく周囲の景色に溶け込んでいかにも旨そうなお店という赴き。これを楽しむために昨日は夏の盛りに、夫婦で15キロもジョギングして腹をへこませて来たわけだから、のれんをくぐる二人の足取りも軽く期待が高まったのだった。
「今日は予約で一杯です」との張り紙で、我々は予約してきた事を喜びつつ一歩お店に踏み入れると、店内は濃い緑を基調にしたつくりで落ち着いた雰囲気である。早速うなぎのお店のお約束、”大瓶のビンビール”で乾杯となるが、出てきたビールが程よく冷えて気持ちが良い。今日の為にネットでメニューを予習してきたという妻は、ビールを飲みつつ「 やきとり、たまごやき、ひれ串、白焼き、それから少ししてうな重『並』を下さい、あ、それからきも吸いも!」と一挙に注文するその声は淀みない。旨いものを食わせておけば、彼女はだいたい機嫌が良いのである。最初にオーダーをすべて言ったのが効を奏したのか、料理が出てくるのはこれぞべストというタイミングで、他のテーブルにサーブする際も、お店の人がきちんと店内の様子を把握している気配りが感じられる。
本日のクライマックスの”うな重(並)”は、うなぎが得もいえぬふっくらした食感で、これがほんのわずか硬めだろうかと感じるお米とほど良くマッチする。たしか3年半前に食べたお隣「石ばし」のうな重はごはんがやや柔らかめだったような記憶があって、それぞれ二つのお店の味は微妙に違うもどちらも甲乙つけがたい旨さである。たれはやや濃い目だろうか。開店して僅か数年のラーメン屋や焼き鳥屋が「秘伝のたれ」などと宣伝しているのを見る度に「おもしろいジョークだね」と笑ってしまうが、「はし本」のたれこそ江戸時代以来の”秘伝のたれ”なのだろう。「お金はただではとらないのだなあ」と改めて感心するばかりだ。「はし本」も東京に7つあるミシュラン星つきのうなぎ名店の一軒だそうだが、お店の人が変に気取っていなくて価格もリーズナブル、昔からあるウナギやさんという風情がとても良かった。
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