飛鳥Ⅱ九州島めぐり・長崎花火クルーズ(2)おれんじ食堂
クルーズ4日目、朝6時頃目を覚ますと本船はすでに長島海峡を通り抜けて八代海(不知火海)を静々と八代に向かっている。飛鳥Ⅱは以前に一度チャータークルーズで入港した事があるが、通常のクルーズで八代に入るのは初めてだと浅井船長は言う。それにしても天草諸島を左手に、九州本土を右に見て進むこの海は、朝日に映える美しい海岸線が続き、日本には多島美に溢れた場所が多い事にあらためて気がつかされる。以前、飛鳥Ⅱで訪れたバルト海などもきれいだったが、日本の海岸や島々の美しさは、それに勝るとも劣らぬ大変な国民的資産であると感じるのである。クルーズに適した海が日本にはまだまだ数知れずあると云えるだろう。
さて八代でのオプショナルツアーの目玉は、肥薩おれんじ鉄道の「おれんじ食堂」乗車だ。これは九州新幹線開業後に旧鹿児島本線の八代・川内間116.9キロを引き継いだ第三セクターおれんじ鉄道が運行する気動車列車で、海岸線を見ながら沿線の旬の食材を車内で楽しむという企画である。今回は飛鳥Ⅱの乗客40名で貸切る人気ツアーとあって、鉄道ファンの我々としては見逃すわけにはいかないと申し込んだのだった。本船からのツアー一同はいったん新八代から「おれんじ食堂」の出発駅・川内まで新幹線で移動し、11時過ぎにいよいよ2両編成の気動車に乗車となった。ここから八代まで3時間40分かけて戻る車中、海を見られる様に改造された専用車両で、沿線の各駅で積み込む地元の様々な料理を楽しむ趣向となっている。
最初の停車駅・薩摩高城では、沿線で保線や草刈をする鉄道の職員が大勢で歓迎してくれ、この列車に対する会社の意気込みが感じられて嬉しい。列車の運転台は開放的なつくりなので、停車中には運転士とも気軽に会話を交わせ、次々に供される食事を楽しみながら、かぶりつきから運転士にも色々訪ねたいと大忙しの車中である。一方でかつて幹線として東京からの寝台特急「はやぶさ」などが駆け抜けた線路で、のんびりと豪華な料理を食べつつ遊ぶのも、鉄道ファンとしてはちょっと複雑な心持もする。それでも薩摩高城、阿久根、水俣、佐敷の各駅で次々と積み込まれる地元の黒豚を使った料理や新鮮な野菜は食べ切れないほどのボリュームで、車窓を堪能しつつあっという間に終点の八代に到着したのであった。
さてこの「おれんじ食堂」に乗車するには、通常は運賃+ランチ料金で一人2万1千円だそうだが、飛鳥Ⅱの本船ツアーの価格は3万9千円である。仮にこの列車に個人で乗車しようと考えると、八代港と駅との往復タクシーに約5千円(2人ならこの半分)、新八代~川内間の新幹線指定席に4000円ほど掛かるから計約3万円となる。飛鳥Ⅱの設定した1万円ほどのプレミアムに価値があるかどうか、船内で友人との茶飲みの話題になったが、本船からの貸切バスや係員のフルアテンド、何より船の入港が遅延した際、または列車が大きく遅れた時に個人で対処せざるを得ない事を考えると、その値段設定はまあリーズナブルであろうと自分なりに得心する。ただしその晩はお腹が一杯で船上での豪華夕食はパス、リドグリルで暮れ行く海峡の景色を眺めながら簡単にお好み焼きとざるそばにしたのだった。
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