俺は絶対よけないからな!
月曜日の朝9時、始業の時間になるとオフィス中にパソコンのキーボードを打ち込む音が響く。沢山の人がおりながら、シーンと静まり返った広い空間にパチパチという打鍵音だけがこだまするのは、一種不気味にも感じる。かつてはこの時間になると一斉に日本各地の代理店や顧客からの電話が殺到し、「担当者は電話中です。少々お持ち下さい」というアシスタントの女性の声や、「○○さんより電話、PCB(プリーズ・コール・バック)というメモが飛び交っていたものである。斯の様に一般事務の場で、電話ではなくメールが多用される様になった事に、今更ながら隔世の感を強くする日々である。
知人の精神科医と話していたら、彼は「メール文化というのは困ったものだね」と言う。「本来、人との会話は相手の顔色や表情、声の調子などを無意識にでも判断し、その中で作り上げていくもので、商談も同様だろう。それに反してメールは活字による文章だから、最初から自分の主張や保全を前面に出してしまう事になる。これは人類が何千年に亘って培ってきた対話の文化を崩すものと云えるのではないか」と専門家らしく手厳しい。たしかに以前から苦々しく思っていた馬鹿丁寧化し慇懃無礼になる日本語は、メールの普及に伴って益々顕著になって来た気がする。
メールやインターネットは確かに便利なもので、現代人ならばその効用に広く預かっているのは論を俟たない。とは理解しつつ電車で座ると、対面の6~7人全員が無言でスマホの画面を食い入る様に見ているのはまことに異様な光景ではある。ある時そんなにスマホが便利なものなら使ってみるのも悪くないかと考え、量販店で尋ねた事がある。「家と会社にパソコンがあってネットに接続できるが、外でネットを見るのは六大学野球の途中経過をみるくらいで年に2~3回。それ以外に音楽やゲームを外でする気はなく、地図や電車の時刻もカンピュータで充分。第一、老眼が進んで画面などは極力外で見たくない…」と言ったら、店員は淡々と「ではお客様にはスマホは必要ないですね。何よりデータ通信料がかかり、今より基本料金が高くなってしまいます」となにやら笑っていた。
ああ、俺は古い世界の人間なのだなとわかってはいたが、これを聞いて自己を再認識するとともに、一抹の寂しさを覚えたのはいた仕方のないことか。それにしても歩きながらスマホを見ていてこちらに突っ込んで来る奴、俺は絶対にこちらからよけないからな!
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