終戦のエンペラー
夏休み封切りのハリウッド映画「終戦のエンペラー」を見に行った。大東亜戦争が終わって進駐してきたマッカーサー率いるGHQが、東京裁判にあたり天皇を戦争の最終責任者として裁くか否かという問題について、史実に基づく経緯を物語の主軸にし、調査責任者であるボナー准将と日本女性との恋愛を物語の綾にして映画が展開する。トミー・リー・ジョーンズ扮するマッカーサー元帥の振る舞いやそのひととなりを含め、大筋のところ歴史はこんなものだったろうとストーリーの進め方については、安心感を持って見る事ができる作品であった。
ただいくつか見苦しい点を述べると、羽田昌義という俳優が扮する準主役の通訳・高橋が、終戦から半月も経っていないのに、現代風の長髪で登場しているのには驚いた。戦争もののドラマを見て常々思う事は、少なくとも準主役以上の出演者は、それなりのギャラを貰っているのだろうから、演劇のプロとして軍人なら坊主、一般人なら短髪と当時の”なり”くらいしなくては、見る方がしらけるというものである。また旧国鉄の蒸気機関車や列車が海外の保存鉄道を使った映像だったり、終戦からかなりの時間が経っても東京が瓦礫ばかりだったりと、ディテイルという点に関してはもう少し凝って欲しかったシーンも多い。
日本で人気があるトミー・リー・ジョーンズが主役の一人になっているあたり、多分に日本市場をターゲットにしたハリウッド映画なのは判るが、戦争責任については”DEVOTION”という言葉を使って、日本軍においては天皇や国体に対する”献身”が、しばしば行き過ぎて”残虐”な行為につながった、と日本人に喋らせているあたりもちょっと違和感がある。このあたり、いかにもアメリカ側から見たステレオタイプの日本人観で、テーマの重厚さの割には、いかにもハリウッド的簡易歴史観だと感じる。終戦を扱う映画としては若い頃見た「日本のいちばん長い日」の印象が強すぎて、もう少し重厚、かつ生臭いものを期待して映画館に出かけたが、主役のボナー准将(マシュー・フォークス)と日本人女性との恋愛が、あまりにも薄っぺらいストーリー仕立てで却って作品の面白さを削いでいた。
映画ではボナー准将とアメリカで恋人だった日本人女性は、お互いを慕いながらも戦争で生き別れになり、戦後、進駐軍の調査責任者であるボナーが来日して必死の捜索をしたが、米機の空襲で彼女は亡くなっていたというストーリーになっている。もし私がこの映画を作ったら、その女性は帰国後に日本的なしがらみの中で日本人の若者と結婚を強制され、夫は徴兵され特攻隊で戦死するが、それでも短い間でも夫との絆は終生を忘れない日本人に描くだろう。彼女はボナーの来日やその愛も身近に感じて、心はさんざん乱れるが、終生清くけなげに生きる選択をする、というストーリーにした事であろう。まあそんな事を考えながらも、娯楽として見ればまずまず面白い映画で、有楽町の映画館は老若男女で満員だった。学校の歴史教科書では教えないこんな終戦を、若い人にもっと見てもらいたいと思った。
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