ロイヤル・カリビアンの事(邦船の要望書提出につけ)
日本外航客船協会に所属する日本のクルーズ船会社が、外国資本の日本上陸に対して国土交通省に「要望書」を提出したとの報道を見るにつけ、お上頼みの日本の会社のふがいなさに失望を禁じえない。邦船各社は、現在のクルーズのかたちを造り、産業として発展させたロイヤル・カリビアン・インタナショナル社(RCI)創業者、エドウイン・ステファン(米国)の企業家精神(アントレプレナー)ぶりでも思い起こし、自らの努力で外国船何するものぞ、と立ち向かって欲しいものである。
という事で、RCI社の事を調べてみると、その創業・発展には大変な努力と創意工夫が為されて来た事が分かる。それまで輸送手段としての考えられていた客船を使って、あらたにクルーズと云う事業と興そう考えたステファンは1960年代末に会社を設立したが当初は資金不足。やむなくノルウェーに飛び、大手海運会社ゴタス・ラーセン社など3社からの投資を得て世界初となる”クルーズ”を目的とした18400トンの同型客船”ソング・オブ・ノルウェー””ノルディック・プリンス””サン・バイキング”3隻を1970年に建造したそうである。
これら姉妹船に導入された、ファンネルに付随したバイキング・クラウン・ラウンジ(シアトルのスペースニードルからヒントを得たとされる)、中央部にプールを配置したモノクラスサービスの船体、ファンネルに輝く王冠と錨のロゴなどのアイデアは、現在のRCIのフリートにそのまま継承されているから、ステファンのクルーズ船に対する考えは大変な慧眼であったというべきであろう。1970年11月、”ソング・オブ・ノルウェー”によるマイアミ発の初カリブクルーズをステファンが始めるとこれが評判を呼び、エア・チケット込みで1週間程度のクルーズを行うなどの様々なアイデアの導入もあって、RCIは大きく発展すると共に現在のクルーズ産業が形成されたのだが、クルーズ船の事業モデルは彼の情熱によって興されたといっても過言でないだろう。
さて1972年にクルーズ事業にカーニバル社が進出すると、RCIは既存クルーズ船のジャンボ化工事など大型船志向に転じ、1980年にかつて大西洋横断ライナーとして一世を風靡した7万トンの”フランス”を購入する。これを”ノルウェー”と改名してクルーズに投入した事は、クルーズ大型船時代の嚆矢となって、以後クルーズ業界が競って豪華・巨大船を建造する事になるのである。この間RCI社も幾度が資金不足に陥ったそうだが、ハイアットホテルのオーナーや、イスラエルの大手船会社ジム・イスラエルなどの援助を得て危機を乗り越え、13万トンのボイジャークラス、15万トンのフリーダムクラス、22万トンのオエイシスクラスを投入しクルーズの雄として発展しているとおりである。
ひるがえって20年ほど前にビル・ゲイツが「世界のパソコンがインターネットでつながる」などと言った時に、私を含めて世界のほとんどの人が「一体それは何の事なのか」と話も分からなかったものだ。しかし現在のネットの発展・隆盛を見るにつけ、アントレプレナーの情熱と努力が世界を変えてしまう事に感嘆するのである。船の世界を見渡してもクルーズ産業をはじめ、コンテナ船の導入など、現在は米国起源のアイデアで多くの海運関係事業が動いているのではなかろうか。かつて航空母艦から軍用機を発着させ、実戦に投入させたのは世界で日本が初めてであり、本格的な機動部隊で作戦を展開したのは日米両国のみである。日本のクルーズ船業界も「要望書」提出などと後ろ向きの事ばかりをしないで、世界をあっといわせる様な素晴らしいアイデアを考えて欲しいものである。それでなければ海洋国・日本の名がすたるというものだ。
写真は上からシンガポールのex "SUN VIKING" 当時 "OMARⅢ"(2005年スターバーゴより撮影)
アカプルコのex "NORDIC PRINCE" 当時 "OCCEAN STAR PACIFIC" (2011年飛鳥Ⅱより撮影)
ポートケラン沖のex"FRANCE" 当時 "NORWAY"(2005年スターバーゴより撮影)
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