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2012年5月20日 (日)

60の手習い

中高年雇用の契約社員の身だから、いわゆるラインのルーティン業務に携わっているわけではない。はるかに年下の部長の特命事項をこなすのが仕事で、これまで若手社員に契約書・ビジネス文章の読み方・書き方などを指導してきた。ここに来て新入社員の初動教育も一段落してきたと思ったら、今度は営業マンによる船舶管理の仕事をせよとのミッションである。船舶管理とは船舶に適正な乗組員を配乗し、様々な航海機器や荷役装置、用具などを管理・手配して安全に船を運航させる仕事なのだが、もとよりこの仕事は専門家の仕事であって、我々の様な営業マンの業務範疇外である。


これまでやってきた海運の営業職は、船舶管理の専門家が用意した本船を使用していかに稼ぐのかが業務なのだったから、船舶管理をする人たちはトイ面になるのだが、管理者(その多くは船乗り出身者)が世界的に不足する一方、最近は航海の安全や環境問題で新しい国際ルールが次々に導入させているのが現状。そんななかで専門家が管理した船を営業マンがユーザーとして、『管理の管理』をせよ、というのが今回のミッションだそうだが、例えば航海機器でいえば最近は船舶自動識別装置(AIS)・ブラックボックス(VDR)・電子海図(ECDIS)に居眠り防止警報(BNWAS)などの設置が次々に法制化されて、なにやら一昔前の船の操船・運航とは様変わりである。そのほか環境汚染防止のための燃料油の成分規制をはじめ、高騰する燃料油対策で減速運航に関するエンジンのトラブル対策など問題山積なのだが、これに対して管理専門家は安全の立場上、新装置の導入や備品購入に十分な余裕を求めがちなのである。


それに対して営業からは、安全に必要な要件を満たしつつコストをミニマムに削減する事を要求する事になるのだが、なにしろ相手は百戦錬磨の管理のプロだから、素人のこちらもそれなりに知識くらいは持ってないとそもそも話にもならない。という事で同じ素人でも部内最年長の私なら、なにかと周辺の状況を知っているし、プロに対して「年の功」で言いたい事も言えるのではないか、と白羽の矢が立ったらしい。それにしても数年前までは管理職で、船舶の在庫品(船用品)リストなどより会社の財務諸表や予・実算管理の表を見てきたから、今更それぞれの船の在庫備品やらエンジンの状態まで知るもんか、と文句の一つも言いたい処だが、そこはそれ、中高年の再雇用とはこういうものと割り切らざる終えない。


という事で先日は、久しぶりにヘルメットにつなぎの上下、軍手に懐中電灯などを持って、東京湾で荷役している本船のエンジンルームや船内倉庫を点検して回った。エンジンルームなどは何十回も見たが、これまではお客の立場で、エンジン音に混じって説明してくれるエンジニアの説明など右から左、エンジンルームを出ると内容などきれいさっぱり忘れていたものだ。しかし仕事となると、さすがに機械の細かい名前や稼動状況説明に耳をそばだてる様になるから不思議だ。それにしてもついこの前まで、パーティのスピーチでは何をしゃべろうかと思っていた人間が、ヘルメットで船内チェックとは自分でも変われば変わるものだと思うが、これも「60の手習い」、興味を持ってやれば飛鳥Ⅱの船上講演で聞いた村上和男博士流に言う「遺伝子オン」になって、また新しい境地もひらけるかも知れないと思っている。
20120518


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