アメリカは日本を見捨てるか
東北大震災からちょうど一年、あの未曾有の災害と時を同じくして、アメリカ国務省日本部長だったケビン・メア氏が「沖縄の人々はごまかしとゆすりの名人」「沖縄の人々は怠惰でゴーヤーも栽培できない」「日本人は合意の文化を金儲けのために使っている」などと、沖縄を侮辱する発言をしたとされる報道があった。直後に起こった震災と津波や原発問題で、この問題もすっかり忘却の彼方になっていたが、書店でケビン氏の「決断できない日本」(文春新書)を目にして、あの騒ぎは一体何であったのか、改めて興味を憶えて購読してみた。
同氏は著書の中で、沖縄に対する発言について「絶対に事実ではありません」「これは作り話です」と反論しているが、その事の真偽は当事者以外の誰にもわからないので、ここで書くのは控える事にする。私がこの本を読んで興味を惹かれたのは、アメリカ国務省が日本や日米同盟をどう捉えているのかという認識が、日本人のそれと大きく喰い違っている事であった。その点で象徴的な箇所を引用してみると「日本の友人たちは有事の際、アメリカが本当に日本を守ってくれるか、いつも猜疑心にさいなまされているようです。クリントン長官が『尖閣諸島は日米安保条約に基づく防衛対象』とあれほど明確に発言しても、本当かどうか疑う声は引きもきらない」とある。しかし国務省のケビン氏は「日本が攻撃を受けたら、米軍が反撃するのは当たり前だと、アメリカ政府は考えている」その事に「アメリカ政府内で込み入った議論があるわけではありません」と本書で明言しているのである。
なかんづく、なるほど相手から見るとこういう視点になるのかと感心したのが次の部分だ。「一つ大事な点は、日米安保条約を結び、アメリカが日本の防衛義務を引き受けているのに、いざ日本が攻撃されたときにアメリカが反撃に乗り出さなかったら、他の同盟国に対する信頼性も喪失してしまうということでしょう。アメリカがその信頼感を失う事態は断固、回避しなければならないのです。そんな事態になったら、アジア地域だけでなく、欧州・中東の米軍の前面展開体制が崩れてしまいます。この視点からもアメリカが日本を見捨てることはあり得ない。そして、とりわけ中国の目の前でアメリカが同盟国の信頼を失うわけにはいかないのです」。私などは「これはなるほどMAKE SENSE ! この箇所を読んだだけで本代780円を払った価値があった」と目からウロコの気持ちがしたものだ。
日本ひいきのメア氏という事を割り引いても、彼が中核となって展開された「トモダチ作戦」の成果を見るにつけ、「防衛予算」を「おもいやり予算」などと呼ぶ不思議や、沖縄では本当は何が行われているのかを報道しないメディアに私は憤りを憶えるのである。氏がこの本で指摘した普天間問題に代表される「コンセンサスの美名の下に決断を先送りにし、二股かけて責任を回避しようという政治には引導を渡すべき」というくだりは正鵠を得ているといえるし、防衛問題だけでなくいつになるのか分らない消費税の引き上げについても”The Japanese people deserve better politics”という氏の指摘は心に響くのである。
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