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2011年8月31日 (水)

ぼくの日本自動車史(徳大寺有恒)

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こんな面白い自動車の本を読んだ事はなかった。「誰にも書けなかった痛快無類の1冊」という帯のうたい文句そのままの本である。名著「間違いだらけのクルマ選び」の著者である徳大寺有恒氏が1993年に書き下ろした「ぼくの日本自動車史」が、今回文庫版となって草思社から再び出版されたものだが、内容は戦後の国産車草創期から1976年に「間違いだらけ」が出されるまでの、徳大寺氏と彼のクルマに係わる歴史やエピソードの網羅で、それが自動車評論にどう展開していったのか自伝的に書かれているのである。なかんずく文中には著者がクルマと係わって来た中での、面白おかしいエピソードがあまた披露されるが、著者の破天荒な生き方からするとそれらは決して誇張されたものでなく、リアリティーに満ちた経験であろう事が笑えるのである。


いわく東名名神高速全線を新幹線より早く走破したとか、昔の街道でトラックを追い越す際にトラックのいやがらせにあって、あわや対向車と正面衝突しそうになったなど、今では考えられない往時のクルマ好きな若者達の武勇伝を通じて、著者は日本のクルマが進化する過程を表わしている。著者のクルマにまつわる実体験から紡ぎ出されたこの本を読み進めると、軟派自動車おたく達の成熟と期を一つにして国産車が発展する様子が感じられ、私などは思わずげらげら笑ってしまうのである。それにしてもクルマの本を読みながら爆笑すると言うのも珍しい事である。


初代のクラウンやコロナなどの紹介、ブルーバードの台頭やスカイラインの先進性など昭和30年代初期の自動車発展の項などを読むと、クルマが憧れだった時代の事を懐かしく思い出し、「隣の車が小さく見えます」などという宣伝文句で代表されたカローラ対サニーの対決の箇所では、トヨタとニッサンの企業文化の違いに納得させられる。第2回日本グランプリでプリンス・スカイラインがポルシェを従えて走った、というあの象徴的な場面も、その真相がこの本に縷々述べられていて、それを読むと「うーん、さもありなん」と時代背景も読めてとても興味深かった。


さて「間違いだらけのクルマ選び」は1976年から2006年まで、毎年年末になると次年度版が出版されていたが、毎年必ず欠かさず購読していた私は、クルマを判断する基準を徳大寺氏の批評や考えを通じて知ったのである。各車種のスペックの優劣は置いておいて、クルマによる文化、何をもってその時代に於ける良いクルマと考えるかなど、クルマ社会のソフト面については、氏の意見が私の中で一つのベンチマークになっているとも言える。市場に出回る多くのクルマによって人々はいかに快適に暮らせるのか、という著者の姿勢は他の自動車評論家と一味違うユニークな評論だと思ってきたが、「ぼくの日本自動車史」はそんな著者のバックグラウンド披露であるとともに、戦後日本の工業史とも若者の文化史とも読めるのであった。


さて、この本が採り上げた1976年までの自動車揺籃期も面白かったが、その後現在に至る昭和・平成の国産自動車に関する続編が文庫本で出たら、それもまた面白いだろうと期待したいものである。 

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