セントヘレナ島
飛鳥Ⅱはナミビアのウォルビスベイを出てから、一路ダカールを目指さずやけに西よりに針路を取り、大西洋の真ん中の方へ進んだ。一体どこへ行くのかと思っていた処、大西洋上の浮かぶ孤島セント・ヘレナ島を見てから、北に向かい次港ダカールを目指すと船長の船内アナウンスがあった。洋上なので離路(デビエーション)が何マイルになるのか私には計算する術もないが、トン当たり600ドルもするバンカー(C重油)を毎日100トンも焚いているから、このデビエーションだけで数万ドルのコストアップになるのは間違いない。考えてみると何と贅沢な旅なのかという実感がふつふつと沸いてくる。
日本を出て既に1ヶ月以上経ったが、この間に陸地に上がったのはわずか5日。飛行機ならば半日で行けるヨーロッパに、こうして毎日毎日海を見ながらゆっくり到達するのも酔狂といえば酔狂。人によってはそんな事は真っ平だ、と思う事だろう。という私も、そろそろ新橋の焼き鳥が食べたくなったなあとか、車の運転がしたくなったなあ等と、ないものねだりの夢をみる様になってきた。わずか400人強の乗客が200米の船内で暮らすので、顔見知りも大分増えて挨拶を交わしたり食事を同席したりするのだが、なかにはこれまでの活動場所が違ったのか初めて見る乗客もいて、船内も狭いようで広い気がする。
「 あいさつをしてもまったく無視する人がいて、一体どういう育ち方をしているんでしょうね 」と先般食事でテーブルを囲んだ年配の方が嘆いていた。概して老齢になるに従って相手の反応などに疎くなるのか、今までの社会生活でそういう習慣を身に着けてこなかったのか、この小さな社会にも色々な人がいるもので、人はそれぞれ違うという事を改めて認識するのである。そんなさまざまな関わりも、同じ船内で一ヶ月以上海ばかり見て暮らすという体験から紡ぎ出されるもので、私はこれは貴重なひと時なのだろうと思う事にしている。
それにしてもルーアンに着いたらノルマンディの海岸にでも行こうかと思っていたが、パリの日本飯屋に行って焼き鳥をつまみ、韓国焼肉屋でカルビをたらふく食べようかなどと少し世俗が恋しくなってくる洋上である。
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