ESCAPE COMPLETELY
スンダ海峡を抜けてからモーリシャスのポート・ルイスまでの間には、本当に何もないインド洋の大海原が続く。船は赤道直下から南緯20度付近のモーリシャスに向かって南西に航行しているが、南緯35度付近に安定した高気圧があって、ここ数日高気圧の吹きだしの風による3米~4米の大きなうねりが南からよせて来ていた。そのため残念ながら一部の乗客は、何日か船酔いのためキャビンから出てこれなかった様だが、漸く今日の夕方からはうねりもおさまってプールの水も平穏になってきた。
どうやら飛鳥Ⅱの航跡は一般的な商船航路から外れている様で、行き交う船影さえ皆無、NHKの衛星放送もこんな人の住んでいない地区に向けては電波を発信していないのか、ここ2日間は受信できない状態だった。それでも読売新聞と毎日新聞の都内版が衛星通信で毎日送られてきて、日本の様子が判るとは世の中も便利になったものだ。30数年前に貨物船に研修で乗船し、カリブ海や中南米に行った時には、ファックスでA4版2~3枚程度届く 「共同ニュース」 だけが洋上で得られる日本のニュースで、それ以外は通信士のモールス信号だけが交信の手段だった。しかし今やネットやEメールの交信まで船上で出来る様になり、通信・情報手段の進歩に驚く。
思えば1980年代までは、船舶と陸上の交信は基本的に船舶無線で、日本の船は長崎か銚子にある無線局経由、本船の無線通信士が陸と交信していた。電報局に本船宛の電報を依頼する際には、16字以上の電文になると料金が高くなるので、新入社員がまず覚えるのは「ウナヘコ」(至急=ウナ、返事こう)とか「イサイアトレン」(詳細は後ほど指示す)などの略語。英文の電報を電報局に頼む際には「ブラボー」(B)「チャーリー」(C)とか「ホテル」(H)「ヤンキー」(Y)などの国際アルファベット識別語を使い電文を作成するが、ブラボーの代わりにボンベイ、ヤンキーの代わりにヨコハマなど、地名を使った簡易版もあった。
時間外に自宅から緊急電報を本船に打電する際などは、寝ぼけていたり酔っ払っていて、「Kは何だったかな?えーい熊本K」などと電報局の交換手にしどろもどろで伝えると、電話の向こうで交換手がくすっと笑うのを感じてたりして恥ずかしかった事もあったものだ。今やテレックスも過去のもので、REVERTING(後で詳細連絡する)や THERE4(THEREFORE)等のテレックス用語も過去のものになるのだろうか。 まだまだスピードの遅い船上のネット環境も、数年後には陸上並になるのだろうが、そうなると船上でも日常からのエスケープは難しくなるのかとも危惧する。その時にプリンセス・クルーズのキャッチフレーズ "ESCAPE COMPLETELY"はどうなっているだろう。
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