石ばしのうなぎ
井の頭公園を水源とする神田川は、高田馬場付近で妙正寺川と合流した後、首都高5号線が高架で川面を覆うあたりでは、かつて江戸川と云う名前で呼ばれていた。護国寺の参道が神田川とぶつかる交差点が江戸川橋と言われ、地下鉄有楽町線の駅名にもなっている由縁である。かつて江戸川岸には桜の並木が美しく、神楽坂芸者が花見にそぞろ歩いたそうであるが、江戸時代にはこの江戸川で天然のうなぎが捕れたと云う。
そんな時代の名残りを残す江戸川橋のうなぎの老舗が、文京区水道の「はし本」と「石ばし」で、過日この江戸川橋うなぎを食べに「石ばし」の暖簾をくぐってみた。「石ばし」の店構えは、しもた屋風のいかにも名店という感じで、ひっそりと川から少し入った路地に佇んでいる。引き戸を開けて脇の椅子席に座ると、そこはわずか3卓ほどのこじんまりとした土間で、客の顔をみてからさばき始めると云う「うな重」は、注文してから料理が出て来るまで小一時間ほどかかる。
昼ではあるがビールや日本酒を頼んで、連れと談笑しつつ待つ事しばし、待望の”うな重特上”3800円也が運ばれて来た。この店のうなぎは静岡県吉田町産で、”特上”以外の”上”も”並”も、すべて目方の違いだけで産地は変わらないとお品書きに説明がある。そうはいうものの、奮発して頼んだ”特上”であるから、お重の蓋を開けて、まず蒲焼のぷーんという香りを楽しみ、静岡産のうなぎに敬意を表して山椒を振る前に一口食べてみると、ふんわりした香ばしいうなぎの味と食感が口一杯に広がる。”特上”であるから蒲焼にかじりついても、うなぎの残りがまだ沢山お重に残っていて、お米ばかり焦って口にほおばる必要がないのは幸せな気分である。
「石ばし」のうな重は、うなぎもご飯も他のうなぎの名店に比べ、ふっくらと調理してある様に感じ、やさしいが贅沢な食感に満足して江戸川を渡って帰って来たのだった。 先年、南千住の 「 尾花 」で一生分のうなぎを食べて、「 しばらくうなぎは結構 」と言っていた妻に 「 このやさしい味なら大丈夫だろう,今度行こう 」 とまたリップサービスをする私であった。
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