君原選手を抜いた
第9回新宿シティーハーフマラソンに参加した。千駄ヶ谷の国立競技場を発着点に、新宿区内の主な道路を交通規制して行う大掛かりな大会で、回を負う度に参加者も増え、今では申し込み開始当日に定員になるほどの人気レースである。何と行ってもアスリート憧れの国立競技場から都心の町を駆け抜けるので、交通に便利、トイレや更衣の設備も整っているのが多くの参加者を集める秘訣であろう。今年もハーフマラソンだけで5500人ほど、10キロや子供たちのレースの参加者応援の人達も入れると1万人を越える人で賑わった。
私たち夫婦も東京マラソンの前哨戦として、昨日のハーフマラソンに出場した。気温3度と寒いものの天気は晴れ、心配した風もほとんどなく、朝9時号砲一発ハーフマラソンがスタート。なにしろ5000人を超えるランナーが一斉スタートするので、スタート時の渋滞はすさまじいのだが、いつもはずうずうしく横入りしてちゃっかり2~3列目に並ぶ私も、今回はおとなしく1時間半くらいを目標とするランナーの区画からスタートすることにした。
で、後ろから行ったものだから競技場の周辺の混雑にまきこまれながら、何とか渋滞地区を切り抜けて前を追うと、1キロ過ぎ前方にどこかで見た事のある走りの初老のランナーが見える。「あれ?」と思ってナンバー・カードをみると、このレースに招待されている往年の名選手「君原健二」とナンバーカードに印刷されているではないか。「いやあ、あの憧れの君原さん」だと思うと抜いてしまうのが何だか恐れ多いし、一緒にしばらく伴走する喜びをかみ締めようと覚悟を決め、君原選手のすぐ後ろにつく。多くの世界のトップランナーが彼のこの後ろ姿を見ながら走り、後塵を拝したと思うと、結果は良いからこの位置に留まってずっと行ってしまいたい、との考えが一瞬浮かんでくる。
ボストンマラソン優勝・東京五輪8位・メキシコ五輪2位・ミュンヘン五輪5位の偉大なランナーも今年で70歳、若々しい走姿のため後ろから付いていくと普通の壮年ランナーの様だが、苦しそうに首を振る往年のフォームはさすがに見せないものの、テレビで見慣れたあの君原選手の走りである。それにあわせて歩を重ねていくと、高橋進コーチの指導でオリンピック選手と大成した事や、マラソン選手としての苦悩やスランプが綴ってあった彼の著書のいくつかを思い出し、さらにはビールが大好きな事とか奥さんとの馴れ初めまで、昔聞いた様々な伝説が脳裏に蘇る。「いやあ、こうやって君原選手の後ろについて走れただけで、今日この大会に参加した甲斐があった」との思いが湧いてきて、しばし感激しながら新宿の街を駆け抜けた。
しばらく伴走させてもらった後、一言何か声をかけて抜いていこうかとも思ったが、あの若い頃と変わらぬ真剣な眼差しで前を見つめる君原さんの姿をみると、市民レースとは云え試合中に声をかけるのも悪い様に思える。なにより、かつて尊敬していたあまりにも偉大な年長のランナーに声をかけて抜き去るのに気がひけて、「君原さん、がんばって下さい、お先に」と心の中で呟きながらゴールを目指したのであった。
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