S/S FRANCE
ベルファストで”SAGA RUBY”号をみたり、エジンバラで旧”おりえんと・びいなす”に再会したりすると、思わず船の一生と云う事に思いをはせる様になる。世界大戦中は多くの船舶が沈められたが、それは別としても数奇な運命を辿る船に出会うと、その歴史につい興味を抱いてしまう。2005年12月に”スター・バーゴ”号でマレーシアのポート・クランに入港する際に、港外にブルーの船体も美しい優雅な客船を見つけ、それがかつての名船”フランス”号であった事がすぐ分り、以来この船の事が気になっていた。今回イギリス周遊クルーズの際、町の本屋で"SHIPPING"という雑誌を立ち読みしていたら、たまたま”フランス”号の一生が特集されていたので早速購入してみた。
SHIPPING誌によると”フランス”号は7万5千トン、ドゴール大統領が国の威信をかけて建造し、大西洋横断の高速ライナーとして1962年に竣工したそうだ。17万5千馬力のタービンエンジンで最高35ノットで航走するために、長さ316米の細長い船型( 現在の同サイズのクルーズ船は260米くらい )を採用したので、背の低い伸び伸びとした優雅な姿である。子供の頃に読んだ船の本などでは、その特徴的なファンネルと美しい船型ぶりがよく記事になっていたので、とても印象深いフネである。
しかし時はあたかも旅客輸送が航空機に変わる時代、加えてオイルショックで燃料を大量に消費するタービン船は採算がとれず、”フランス”号は74年にライナーサービスから撤退。NCL(ノルウエイジャン・クルーズ・ライン)に売却されクルーズ船に改装の上、タービンエンジンもディーゼルに乗せ換えられ、クルーズ船”ノルウエー”号として再出発する事になる。この頃は現在のクルーズ産業もまだ端緒についたばかり、クルーズ船といっても2万~3万トン型が主流の時代に、世界最大のクルーズ船としてカリブ海で人気を誇ったのである。
ところが”ノルウエー”号は2003年5月マイアミで修理が不可能な程のボイラーの大爆発事故を起こす。調査の結果クルーズ船としてはもはや再起不能とわかった同船は、NCLの親会社マレーシアのスター・クルーズ社によってアジアに回航される事になる。この間、スクラップにするか浮かぶホテルやカジノとして生き残るか、様々な使い道が検討された様である。結局2005年夏からポート・クラン沖のマラッカ海峡の一角で、”ノルウエー”号は碇を下ろして、自らの行く末を待つ事になるのだが、私たちがこの船を見たのは丁度この時期である。その時、望遠鏡で”バーゴ”の船上から観察すると、青く美しい船は電気も灯され、今にもクルーズに出かけられる様に見えたものであった。
同船のその結末が心に些かひっかかっていたのだが、SHIPPING誌によると結局2007年に解撤業者に売られてインドの海岸に乗り上げ、スクラップ処分になったとの事。アスベストスの処理を巡って船主と環境保護団体との係争が最後まで続き、争動の上にその一生を終えたそうである。大統領に祝福された竣工したフランス号であるが、その最後はあまり幸福な終末を迎えたとは言えないであろう。
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