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2010年6月18日 (金)

血圧は気から

数年に一度診てもらっている検査のため一泊の入院をした。日ごろピンピンしていても病院の服に着替え、腕に点滴のチューブなどをとりつけられ、スリッパで病院のリノリウムの床をペタペタ歩くと、急に病人になった気がするから不思議なものだ。禅では「 外相整えば内相自ずから熟す」という言葉があるが、その反対にさっきまで元気だった者も、ちょっと環境が変わると「 青菜に塩 」の心持ちになる事を実感する。

さて点滴をしながらベッドに横になっていると、数時間おきに看護婦 ( 女性は看護婦で良いのに、看護士って変な言葉である ) が検温や血圧を測定しに来る。退屈している処に若い女性の話し相手が来たとばかり喜んで、体温計をはさみ腕に血圧計の帯を巻いてもらう。血圧と言えば日ごろ検診の際 「ちょっと高いですね 」と言われているのを気にするあまり、最近はわが家で血圧をはかる時も心臓がドキドキしてしまうくらい臆病な私である。家の中での測定でも、そんな時は脈拍が上がって高血圧の表示がよくでてしまうので、深呼吸してもう一度はかると、血圧もさっきより20以上も低くなる。最初から2回目と思ってやれば良いじゃないか、とも思うのだが、そうはいかないのが人知を超えた人間性の不思議と云うもので、何とも心理的プレッシャーに弱いのである。

さてそんな私も、入院でもしていると正にマナイタの上の鯉、「どうにでもしてくれ」とばかり看護婦との会話を楽しみつつ、ベッドでじっと測定されていると、血圧は「 少し低いですね 」などと思わぬ事を言われる。なにしろ一日で一番血圧が高くなる早朝でも、今回は上が100で下が60位にしかならず、「 いつも心配して減塩を心がけているのはどこのどいつだ~い? 私だよ! 」と自問自答してしまう様な状況だ。これを考察すると、どうも私の場合「 血圧を測るぞ、測るぞ」と考えただけで、数値は20も30も上がるのだが、入院中はジタバタせず、血圧の事より検査の事に気をとられているから低くなっているだろう。なんと暗示にかかりやすいのかと、おもわず自分の情けなさに笑ってしまう。

そんな訳でこの2日間で血圧の点ではすっかり自信を取り戻して帰宅し、試しにいつもの様に家で測ってみると、あら不思議、脈も上がらず初回から上が110で下が60と全然問題ない。「 ほーら見ろ、血圧が高めなんてのは、やっぱり精神的なものだった事が実証された 」と一人ほくそ笑んでいると、妻は傍らで「 本当に複雑なような単純な人ね、測定に自信がついただけで実際に血圧が低くなるなんて 」とゲラゲラ大笑いをするのであった。

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