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2010年5月16日 (日)

鮒ずし

宮本輝の長編小説で「 にぎやかな大地 」と云う作品がある。味噌・醤油・漬物などわが国伝統の発酵食品をテーマにしつつ、発酵という微生物の大いなる働きと人間の営みを重ねた展開で、人間が生きる意味を紡ぐ後味の良い小説である。その中では近江の鮒ずしが、発酵食品の代表として描かれているのだが 「 にぎやかな大地 」を読んで以来、私はいつかこの鮒ずしを食べてみたいと思っていた。そんな思いで、ある日滋賀県出身の義弟に鮒ずしを所望したところ、せんじつ帰郷した際に買ってきてくれたのが写真のものである。

鮒寿司(ふなずし)は、琵琶湖特産のニゴロブナを使って作られる熟れ寿司(なれずし)の一種で、乳酸菌が発酵の際に作用するとの事。臭気が強く腐ったチーズの様だと言う人もいるので、おそるおそるパックされた鮒すしのビニール包装をといてみると、現れたお寿司は食べ易くスライスされた鮒の切り身で、からすみの色を薄くした様にも見える。傍らで妻は「 クサー! 」と顔をしかめているが、幸いな事に私の嗅覚は妻の3分の1くらいらしく、東南アジアのドリアンなども苦も無く食べてしまうのである。伊豆名物”くさや”やノルウエイの乾燥発酵食品”ルート・フィスク”でも何でも来いなので、この鮒ずしくらいの臭いはまったく問題にならない。ニブイというのもたまには良い事もあるものだと、日頃妻に鈍感さを指摘されている私としてはしばし勝ち誇った気分でもある。

一口ほうばってみるとそこはかとなく臭気が漂い、いかにも健康に良さそうな食べ物だ。海がない近江では、昔から琵琶湖でとれた魚を長期間保存し、発酵作用によって旨みを引き出す手段として、鮒ずしを作り出したと云われているが、それら先人の知恵に感謝し、酒の肴にこれまた絶好と、半分ほど食べて明日に楽しみを残した夕べであった。
20100516

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