ロッククライミング
今回乗船している”レジェンド・オブ・ザ・シーズ”は本社がマイアミにあるロイヤル・カリビアン社の運航で、この会社は1968年からクルーズを始めたこの業界の先駆者である。客船が国際旅客輸送の表舞台から姿を消していた時代に、船による新しい周遊旅行を提案し、これを実現させた嚆矢的会社の一つなのである。道具となる客船はそれまでの大型定期旅客船の様なスピードを求めず、どちらかといえばずんぐりむっくりの船型を採用し、従来は厳格に分かていた等級制を廃止して、原則だれもが同じレストランやパブリック・スペースを共有するモノ・クラスの新しいジャンルの船旅を開拓し、現在の世界のクルーズ標準スタイルを確立させた会社でもある。そんな先駆けの意地であろうか、この会社は意欲的に大型船を新造し、いまや22万トンという世界一の大きさを誇るクルーズ船 ”オエイシス・オブ・ザ・シーズ”を就航させている。
ロイヤル・カリビアン社は船旅を楽しく過ごす要素を、船のハード面にも積極的に採り入れ、ファンネル(煙突)構造物の中に作った見晴らしの良いラウンジを初期から造った他、最上階のオープンデッキにジョギングやウォーキングのスペースをゆったりと採るなど、明るさに溢れたシップデザインを採用している。そんな同社の最近のウリは、船上でのロック・クライミングやジェット水流によるサーフィンなのだが、このレジェンド号はロック・クライミングの設備を備えており、乗船すれば無料でチャレンジできるとあって、「一度トライしてやろう」と意欲満々で乗船したのだった。
さて我々夫婦は乗船5日目の午後、ロッククライミング場が空いているのを見計らって、インストラクターの女性にチャレンジしたいと申し出る。インストラクターが提示した「自分の意思でこの登攀を選びました」「何かあっても自己の責任とします」「酔っぱらっていません」などと免責条項が羅列してある誓約書にサインをすると、なにやら大変な冒険にこれから挑戦する様な気持ちがして胸が高まる。足のサイズに合った専用の靴を借り、ヘルメットをかぶり、腰にハーネスを装着すると、そのハーネスにインストラクターが滑落の際にホールドしてくれるザイルを結びつけて、いよいよ準備が完了する。
さあ登るぞと、壁に埋め込まれた足掛かり・手掛かりを頼りに身体を引き上げるが、この突起は思ったより小さくて、そう簡単には登れない事がすぐにわかる。高さ8米ほどの壁を2~3米よじ登ると、「えらい事を始めてしまった」とも後悔し始めたが、ここでくじけては隣の壁をやはり登っている妻に笑われそうだ。とにかく一歩づつ手の届く足掛かりを探してよじ登ること数分、オーバーハングも乗り越え、やっと登頂成功者が鳴らす鐘が手の届くところに来たので、高らかに”カン・カン”と鐘を鳴らして、ハイポーズ、下から写真を一枚取ってもらってから一気に下降したのであった。この壁、係員は20フィート(6米)と言っていたと記憶するが、今日、再び下から見るとどう見ても8から10米はありそうだ。ハーネスとロープで安全とは云え、壁に張り付いて上から眺めた海面ははるか下の方に遠くで、結構スリルを味わえる施設であった。船の上での登山もオツな趣向だが、妻はちょうど良い突起がなくて困ったとぶつぶつこぼしており、しかも翌日は上半身の筋肉痛がひどいそうで、もうこの船では再チャレンジしないと、先ほどから宣言している。
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