珊瑚海クルーズ
イギリス籍のクルーズ船"PACIFIC DAWN"号に乗船し、豪州ブリスベーンからニューカレドニアやバヌアツなどミクロネシアの島に向かう海は、コーラル・シー=日本語で珊瑚海と呼ばれている海域である。熱帯のこのあたり、群青色の海は深く澄み、水平線には南洋の雲がゆうゆうと流れていく。そんな穏やかな海が昭和17年5月、日米の艦隊が決戦を展開した場所だったとは、今やクルーズ船上でも想いおこす人はほとんどいないであろう。
昭和17年4月当時、開戦から破竹の勢いで南進した日本軍は、ニューブリテン島のラバウルを起点として、パプア・ニューギニアやガダルカナルなどソロモン諸島に勢力を伸ばそうとしていた。地図で見ると判るのだが、アメリカ西海岸の諸港から豪州東岸まで直線を引いてみると、調度この珊瑚海を通る事になり、米豪を遮断するにはこの地域の島を押さえる事が戦略上必要であったのである。
この日本の動きを阻止しようとする米海軍は空母部隊を珊瑚海に派遣し、昭和17年5月初めこの海で史上初の空母艦隊による本格的な海戦が行なわれた。激烈な戦いは数日間続き、米軍は正規空母”レキシントン”沈没、”ヨークタウン”大破、日本は正規空母”翔鶴”中破、小型空母”祥鳳”沈没で海戦は終わった。形の上では日本側やや有利の結果だったものの、わが国は多くの艦載機とパイロットを失い、ニューギニアのポート・モレスビー攻略を断念するなど、その後の大戦の帰趨に影響を与えた海戦でもあった。
さて、この海域の上空は、日本からニュージーランドへの空路にもなっていて、かつてニュージーランドの材木輸送を担当していた私は、今まで何回もここを飛行機で行ったり来たりしていたのだが、当時は珊瑚海の事など考えた事もなかった。しかし今回フネの速度に合わせて移動しているうち、往時の両海軍の進撃する速度を体感できた様にも感じ、その地理感が初めて判った。特に”PACIFIC DAWN”号には船内2箇所に海図が掲示されていて、それを毎日眺めているうちに、珊瑚海やソロモン諸島の地政学的な位置づけが自然に理解でき、なぜこの海域で一大海戦が行なわれたかが体感できた。
以前、紀伊新宮への国内クルーズの際にも、海路から見た大和朝廷の成立というテーマに思いを馳せる事ができたのだが、船旅をしてみると飛行機で旅している時には気づかなかった歴史の舞台が理解でき、今までと違った視点で史実を感じる事ができるのである。船上から限りない水平線を望んでいると、この海を策敵していた旧海軍の九七式艦攻や米国のカタリナ偵察機がタイムスリップして出現してきそうな気がして、我らが先達の命を賭した戦いに思いを馳せ、平和な海でのクルーズを感謝するのである。フネの旅は良いものである。
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