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2010年3月26日 (金)

浅田次郎”ハッピーリタイアメント”

浅田次郎の新刊小説”ハッピーリタイアメント”(幻灯舎)を読んだ。定年を4年後に控えたしがない財務官僚と愚直だけが取り柄の自衛官、ノンキャリアーの2人が突如再就職先として斡旋された天下り先は、時効になった債権を取り立てる機関だった。しかもその天下り先は、仕事をするとかえって皆の迷惑になるので、通勤した後は何もしてはいけないと云う職場だったのである。ここで定年まで数年ぶらぶらして昼寝をしていれば、たいそうな給料をもらった上、多額の退職金を二人は貰えると云う。だがこの体質に馴染めぬ二人は、職場のおツボネ女性と3人で、奇想天外なミッションを開始するのである。

この小説は作者自身の体験からヒントを得て書かれたというが、作者も含め登場人物がちょうど私とほぼ同じ年代、早期退職する彼らの微妙な心境描写に共感を覚えているうち、二人が始めるミッションが予想外の大成功を収めていく筋書きの面白さに、思わず引き込まれる。人間心理の彩をついた小説の着想と、軽妙なタッチの文章、そして最後のどんでん返しとなかなか息もつがせぬ活劇の様な展開で、映画化したらさぞかし面白そうでもある。

人生はあざなへる縄のごとし、作者は、遊びに仕事に可能性を追求すれば、年齢に関わらずまた道も拓けるという「幸福」のメッセージを我々に伝えてくれる。しかしそれにもましてこの作品の洒脱なところは、人間の幸福はお金や地位だけではない、それどころか愛とか家族の絆が断ち切れても、その気にさえなれば人間は矜持を保てるし、人生を楽しめるのだと言っている事だろう。たとえ何もないデスペラートな状況でも、人間のもつ究極の明るさやバイタリティーに焦点をあて、どの人間もが心の中に持っている、あっけらかんとした楽観主義にスポットを当てている事が爽快なのである。

閉塞の時代・鬱の時代などと社会全体がマイナスの現象を取り上げて騒いでいる様だが、作者は、中高年こそ、どーんと”おとなげない事”をやってみようじゃないか、自分の信念に忠実に生きてみようよ、という応援メッセージを送っているようだ。シニアー層がおしゃれでいて、元気で群れず、個人個人が野望を持って生きている様な高齢化社会も、これまた素敵な社会じゃないかと、私は感じたのであった。
20100325happy_retire

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