サリンジャー
アメリカの伝説の作家JDサリンジャーが亡くなった。91歳だそうだから私の父親の世代、戦中派といえよう。代表作「ライ麦畑でつかまえて」をかつて読んだ事があるが、いささか風変わりな主人公の世をすねた様な話だったと記憶する。内容的にはどうも興味を持てない作品であった事を思い出すのだが、私にとってサリンジャーといえば、映画”フィールド・オブ・ドリームス”でジェームス・アール・ジョーンズ扮するところの、テレンス・マンという名前で描かれたサリンジャーである。
”フィールド・オブ・ドリームス”の主人公のレイは、サリンジャーを支持するベビーブーマー世代でアイオワで農場を経営している。不思議な声に導かれ、トウモロコシ畑をつぶして作った彼の球場では、伝説のシューレス・ジョー・ジャクソンの無念が癒され、仲たがいをしたまま幽冥を分かった父親とレイがその球場で再会する、と云うストーリーで、夢の大切さと父子関係の相克を描いたファンタジーなのだが、そのなかでサリンジャーが重要な役割りを果たす。
彼はレイたちの年代のヒーローであり、新しい世代の思想的なバックボーンとして映画では描かれている。そのサリンジャーは世捨て人として隠遁生活しているが、主人公レイの情熱に背中を押され、アイオワのトウモロコシ畑の球場へやってくる。そこでサリンジャーは新しい世界への第一歩を踏み出す事になるのだが、新しい境地を目指して球場の向こうに育つトウモロコシ畑にテレンス・マン(サリンジャー)が一歩を踏み出すシーンは大変印象的だ。球場の向こうに何があるのか、映画制作者はサリンジャーに夢に挑む事で葛藤を止揚し、世捨て人から復活する様メッセージを送ったのではないかと感じるのである。
「ライ麦畑で捕まえて」は1951年出版以来、世界で6,000万部も売れ、いまだに売れ続けているそうだが、どうやらサリンジャーはアメリカのベビーブーマー世代では、我々が想像する以上に特別な存在である事を”フィールド・オブ・ドリームス”を見ていると感じる。ライ麦畑が発表された1951年といえば第二次大戦が終わって6年、ふっとあたりを見回す余裕がアメリカの若者にできた時期でもあり、かたや朝鮮戦争の時期でもある。サリンジャーの作品には、当時の若者が感じた斬新かつ微妙な息吹が凝集しているのだろう。
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