けつ面着陸
姪っ子と一緒に明治神宮のスケート場に行った。子供の頃は随分スケート場に通ったから、バックとかクロスとか教えてあげるよなどと大言壮語して、意気揚々と週末で込み合うリンクに乗り込んだのだ。さて靴を履き替えて氷に一足おりたら、格好良く滑り始める”はず”であった。ところがである、さっそうと滑っているのは頭の中のイメージばかりで、30年ぶりに足をつけた氷上の感触はおぼつかないかぎりで、ツルツルの氷に足をとられていきなりお尻から転倒してしまう。なにしろうまく滑れるつもりで無防備で飛び出したからいけない。大勢のスケーターの前で足を上げての見事な転び方で、頭が真っ白になる。
「 これはヤバイ 」と手すりに掴まり掴まりして、まるで初心者の様にリンクをやっと一周すると、緊張で上半身が凝り固まっている。かたわらをみるとこれで2度目だと言う姪っ子の方がスイスイとリンクの中央を滑走していく。「 大きな事を言うものではなかった 」とも思ったがいまさら仕方ない、せっかく入場したからには楽しもうと、さっそく頭を切り替え、よちよちと2周3週とリンクを廻るうち、おぼろげに過去のスケートの記憶が蘇って来るから不思議である。丁度パソコンの記憶メモリーに電源を入れると、過去のデータがゆっくりと画面に表示されて来る様に、一周ごとに若い頃の記憶が体内の運動神経に伝達していく様にも感じる。こんな時、人間は運動ができる精密な情報処理機関なんだと改めて実感する。
という事で一時間ほどすると、週末で込み合ったリンクでもなんとか流れに乗って滑れる様になってきたのだが、そろそろ帰ろうかと云う時に、コースをいきなり斜めに横切るスケーターと交錯してしまった。まだ氷上で他人を軽くいなすほど、復活したわけではないし、若いときより筋力も運動神経も衰えて咄嗟の反応は難しい。その人と絡まったまま”あああッ”と声を上げながら、視野は氷から壁へ、そして天井へとゆっくり90度回転して見事にお尻から落ちてしまった。またしてもケツ面着陸をしてしまったが、その痛いの痛くないの。相手が「 すみません、大丈夫ですか?」と心配そうに覗き込むのを、やせ我慢で「 ははは、大丈夫 」と笑ってごまかしつつ、天井を睨みながら唸っていると 「 良い歳してスケートして尾骶骨骨折か 」 とニヤニヤする仕事仲間の嘲笑が聞こえた様な感じがしたのである。
幸い尻の骨は異常ない様だが、今日は肩やら肘やらあちこち痛くてたまらない。久しぶりのスケートはよほど力が入っていたのだろう。気が若いのもほどほどにしておけ、という天の声か。
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