日本の製造業の強さ
船舶用グラブバケットメーカーの新工場竣工記念パーティーに出席した。船舶に貨物を積み込む際は、普通は陸上の荷役装置を使用するのだが、開発途上国など港湾設備の整っていない港では、本船に装備したクレーンやグラブで荷物の積み降ろしをする。このメーカーは、こうした舶用グラブバケットのわが国ナンバーワンメーカーで、国内ではほぼ独占的に製品を供給するのみならず、おそらく東半球全域でマーケットを圧倒しているのである。
25年ほど昔この会社の社長と2人、新しいプロジェクトでフィリピンのパラワン島の鉱山に出張した事がある。マニラからフライトを乗り換え乗り換え、最後は鉱山会社のセスナが週に数便立ち寄るジャングルの中が目的地で、マラリアの予防薬を呑みながらの出張であった。町は鉱山の従業員宿舎以外は電気もなく、夜は真の闇に閉ざされて、おおとかげの鳴き声が聞こえる正に辺境の地であった。
当時このメーカーが新開発した装置を使い、新しい方法で最寄の港からの鉱石の船積みを行ったのだが、それを監督するのが出張の目的だった。私は最初の数日の間、順調に作業が行なわれば、後は現地の人に任せてさっさと次のセスナ便で文明地まで帰ろうと思っていたのだが、同行の社長は10日ほどかかる作業が全て無事終了するまでは見届けると、頑として現場を離れない。高額なセスナ便を何回も往復させるわけにもいかず、やむなく私もジャングルの中で社長と二人、マラリアの薬をのみつつ作業を見守り10日間を過ごした。しかしその時、彼の熱心な仕事ぶりに製造物メーカーの自社製品に対する責任と、自負の念をかいま見た気がした。
それ以来、現在に至るまで社長とは永い付き合いであるが、驚く事は常に自社製品を改良しよう、より良き製品を作ろうという彼の製造者魂である。材料から仕様に至るまで、グラブバケットなどという変哲もない様な産業用機械が、毎年少しづつ改良を加えられているのである。社長に会う度に「今度の製品は、ここをこう改良しましたよ、これで能率がこう良くなり、故障も減るのです。」と子供の様に目を輝かせて説明されると、じゃあまた新しいのを買ってみるか、と云う気になって一基1000万円もする新しいグラブバケットを多数購入したものだが、それらを後輩達が現在も使って仕事をしていると聞くと、会社を辞めた今も買って良かったなと思うのである。
今日の記念パーティーでは、例によって更に改良を施された新製品の披露もあり、カイゼンに対する社長の挨拶を聞くうち、日本の中小メーカーの技術力と製品への執念・製造者としての矜持を感じ、こういう機器メーカーの一つ一つの強さが日本の工業製品の強さの源泉であると改めて感じたのであった。
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