旅情
トワイライトエクスプレスに乗って、久しぶりに昼と夜に亘り在来線の車窓景色を楽しんだ。そういえばちょっと前までは、航空機や高速道路・新幹線なども無かったから、長距離の移動と言えば汽車の旅。夏場は窓を大きく開けて新鮮な空気を取り入れようとすると、前方車両の垂れ流しトイレから飛散してきたし尿が、ちょと窓から出していた肘などにぺシャと付着した。「エンガチョ」などと思ったものの皆大して気にもしていない時代だった。(ところで”えんがちょ”は、東京方言なのだろうか?)
そう云えば、あの頃は線路に向かって、”ケンシ・ポマード”とか”管公の学生服””禁鳥の蚊取り線香”などと言う大きな宣伝の看板が至る所に立ててあったが、今や在来線でもそんな看板がほとんど見あたらない。現在の旅は飛行機やクルマなので、沿線に大きな看板を立てても宣伝効果が無くなったのだろう。新幹線は速すぎるのか、僅かに”727コスメティック”とか云う化粧品の広告看板を沿線に見る位である。
当時は食事時になると、駅弁やお茶を買える駅が待ち遠しかった。名物の駅弁を買える駅では、限られた停車時間中に手際よく買わねばならないので、列車が到着するやいなや売り子や販売所のある場所までホームを走ったものだ。発車のベルがなり始めてからようやく駅弁を買え、お釣りなどをやりとりするあのスリリングな気持ち。走り始めた列車の窓から、歩調を合わせながらお弁当とおつりを渡す売り子などもいて、手際の良さを見ては感心したものである。あの駅弁売りの呼吸はメジャー・リーグ球場のピーナッツ売りに匹敵するのではないかと今では思う。
夜のとばりが降りた後の沿線の景色も良かった。畑などの向こう、ところどころに民家の灯りが灯っていて、その灯りが次々後ろに過ぎて行くのを見ていると、それぞれの家庭で生活がありそれぞれのドラマがあるだろう等と感傷的な気分になってきたものだ。今頃、あの灯りの付いた家ではどんな団欒があるのだろうかとつい想像してしまうのだが、そんな仮想の場面はなぜか「三丁目の夕日」の様な丸いちゃぶ台にキリンの瓶ビール、井戸水で冷やしたスイカなどになってしまう。今、新幹線は速すぎて真っ暗な車窓だと思ったら、停車駅に近づくと遠くからでも判る煌々たるパチンコ屋の照明などが目に入って来るばかりで誠に味気ない。
トワイライトエクスプレスのエアコンディションの効いた食堂車で、フルコースのフランス料理にワインを楽しんでいても、客車列車の轍の響きや機関車の警笛の音を感じつつ、適度な速さで景色が流れ去って行くのを見ていると昔の汽車の旅を思い出し、在来線くらいの速さが旅情を楽しむのには丁度良いのかな、と感じるのである。
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