時宜
ここ数年、海運会社の好業績の源になっていた、ばら積み貨物船の市況が急落して、関係者は混乱に陥っている。中国が過剰な在庫調整の為に素材輸入を控えている処に、世界的な金融危機が追い討ちをかけているらしい。1ヶ月前まで我が世の春、怖いものなしだった海運企業の役員さん達は、今や顔も真っ青、新造船の発注残も多く市況の回復を心待ちしている状態である。海外ではすでに立ち行かなくなる海運会社の噂や、新造船のキャンセルの話もあちこちで出ている。
ここ数年ブームにのって業容を拡大し、設備投資を行ってきた大手海運会社は「従来は8億の民だけが世界経済を支えていたが、いまやBRICSの30億人が市場に入ってきた」「中国やインドは内需主導で欧米が景気後退しても影響は少ない」などなどの理由で大きな海運市況の後退はない、と断言していたのだがその予想は「おおはずれ」。
さてこの間、業界誌(紙)などもちょうちん記事で「行け行けどんどん」を扇っていたのだが、そんな中ある海運専門誌にこの夏勇気あるコラムがあった。このコラムは初夏の頃に原稿が書かれていたものだろうが、その時点で市況の悪化を唱える人はほとんどいなかった時に、注目すべき意見だった。
いわく
- 世界経済は(今年初夏の段階で)サブプライム問題で後退局面に入っていたが、経済の後退は後追いで海運など物流に影響する。
- 90年代IT革命が景気循環を穏やかなものにする、と言う論者が多くいたがそんな事はなかった。中国等の内需拡大が先進国の景気後退のバッファーになって海運市況が 落ちないという事も同様に期待できない。
- 海運企業は、都合の良いデータを見つけて、それがいつまでも続くのだという事を誰かが言い出し、仲間間で共有・共鳴する事で安心している。
- 数ヶ月の内に大きな、海運市況反落が来るだろう。
と言うものであった。かなり影響力のある業界誌で多くの関係者が目を通しているであろう処に、時流と反対の大胆な意見を述べる物だと感心したが、今から見るとけだし、時宜を得た警告だった。市況を解説する者(意見・記事)はその発表タイミングが大変重要で、「大筋当たっているが数ヶ月ずれていた」類の論評や、後追い説明は、まったく役に立たないが、このコラムの警告についてはその先見、慧眼に脱帽する。
まあいずれ市況は回復するだろうし、私はかなり早期にある程度まで反発して上がると見ているが、ここ5年ほど続いた史上最高の海運景気に冷や水を浴びせ、関係者にもう一度原点を振り向かせるには、今回の急落は絶好の機会であったと考えたい。
市況に大きく左右される産業で食べている者として「どんな市況も上がったら下がる、理論では説明つかない上げ下げが起こる、大勢が一方に行く時には慎重に行動すべし、リスクの取れる範囲でしか業容を拡大しては行けない、それで一時他社から遅れをとっても良い」と言う当たり前の教訓を噛みしめている。
「経済・政治・国際」カテゴリの記事
- 兵庫県知事選と新聞・テレビのオワコン化(2024.11.20)
- 祝・トランプ勝利、試される日本、オワコンのメディア (2024.11.07)
- 衆議院議員選挙 自民党惨敗(2024.10.27)
- まずトランプになった 来年は日本の覚悟も試される(2024.07.22)
- 靖国参拝で自衛隊幹部が処分されたことに異論を唱える(2024.01.28)
コメント