マッハの恐怖
柳田邦男が書いた「マッハの恐怖」を読んだのは、今から30年前以上だったろうか。羽田沖に墜落した全日空のボーイング727の事故を、一般向けに分析した分厚い本だったが、巨大事故の原因を究明しようと試みる作者の筆致は新たな領域を開く、画期的なノン・フィクションだと印象に残ったのであった。爾来、システムの欠陥に関する様々な事象に少なからず興味を持って、かなり多くの本を読み、フェイル・セーフだのフール・プルーフだのと言う言葉も親しんできた。
最近はディスカバリー・チャンネルの「航空機事故の真実と真相」や「衝撃の瞬間」「メーデー」などの飛行機に関する事故の番組を良く見るが、今まで本で得た知識やNTSBのウエッブ・サイトで拾った情報と参照して、これら番組を通して巨大システム事故を探求する事も興味がもてる。
さて本日もうつらうつら同チャンネルを見ていると。「エアー・カナダ143便」事件をやっている。この事故もこれまで、あちこちで紹介されてきたが、改めて画面で見るのも新鮮だ。事件は1983年、新たにエアーカナダに導入されたボーイング767、143便(モントリオール発エドモントン行き)が燃料給油の際、メトリック法とヤード・ポンド法を間違い、必要量の半分以下の燃料しか給油せず離陸した事が原因で途中空港に不時着する事件だ。幸い死者が出なかったが、そもそも同機の燃料計が故障していたと言う遠因はあるものの、システムとそれを取り扱う人々の小さな認識の齟齬と、確認不足に事件の主原因があった。
アメリカ/カナダの国境をクルマで越えると、同じフリーウエイの延長なのに、それまでマイル表示だった制限速度が、キロ表示に急に変ってしばし面食らうものである。同様にシステムや換算に関する基本をちょっと間違えた事で大事に至る事は随分多い。船の世界でも、同じ重量トンでもロング・トン(2240ポンド)メトリック・トン(2200ポンド)ショート・トン(2000ポンド)と3種類ある。1マイルは陸上では1609米、海上では1852米とちがうし、ブッシェル、バーレル、ボード・フィートなどなど数え上げだしたらきりがないほどの単位がある。いつも仕事上では注意している点ではある。
さて人間はどの様な認識の誤謬に陥るのか、システムと人間の認識にどの様な相違が生じるのか、人間の構築したシステムがいかなるバグを生み出すか、など日頃事務系の仕事をしていても考えておかなければならない問題が、これらの事故例を見ると多々教訓として示されている気がする。143便の事件を見ると、ドル表示なのに1000円単位の円表示だと勘違いして、決算表を見ている自分なら「同じ事やりかねない」と自省するのである。特に1米ドル=100円になると表を見ても円かドルか判りませんよ。
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